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「どうして……」
つい反応してしまった。すると女性は、眉間に小さく皺を寄せ、私の上から下まで視線を這わせた。
「わかるのよ。その縁を切らない限り、あなたはこの先もずっと縛られ続けてしまうわ」
はっきりとした口調でそう言われた瞬間、この人にすべてを聞いて欲しいという気持ちが湧いた。
時間はあまりなかったけれど、学生時代からの友人と縁を切りたい旨を簡単に話した。
女性は黙って、ただただ私の話に耳を傾けてくれた。そして聞き終わると大きくひとつ頷いた。
「あなたに相応しいものがあるの」
そう言って女性が机の下から取り出したのは……
「ハサミ、ですか」
拍子抜けしてしまった。
「まさかそのハサミで縁を切れます、なんて冗談言うわけじゃないですよね」
私は口の端で笑いながら言った。すると意外なことに、女性は真剣な表情で応えた。
「まさにその通りよ。これは、絶ちバサミと言って、人との縁を切れるハサミ。このハサミを手にすれば、自分と繋がっている縁が見えるようになるの。だから切りたい縁を選んで切ればいいわ。そんな不審そうな顔をしないで、ほら、嘘だと思ったら、試しにお手に取ってごらんなさい」
女性がハサミを差し出した。どこにでもありそうな、黒いハサミだった。
そっと指で触れてから、思い切って掴んでみた。
「えっ」
思わず声が出た。
目の前に黒い線が現れた。一本や二本ではない。私の体のあらゆるところ、指や腕やお腹や脚など、およそ見える部分から細い糸のような線がまっすぐに四方へ延びているのだ。ハリネズミやウニの気持ちが少しだけ分かった気がする。いや、そんな場合じゃない。驚きすぎて次の言葉が出なかった。そんな私の様子を見て、女性は微笑んだ。
「見えたようね。いかがかしら。その糸は、すべてあなたと誰かが繋がっていることを示す縁の糸よ」
「こんなにたくさんの糸……あ、でも、この右肘から出ているやつ、あなたの肩と繋がってますよ。私たち、これまでに関係なんて何もないのに」
私の発見を不思議そうに告げると、女性は目を細めた。
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