絶ちバサミ

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 離婚に応じてくれない夫との縁を切りたい、元カレとの縁を切りたい、学校でいじめっ子との縁を切りたい、殺したいほど愛してしまったので、何かしてしまう前に相手を忘れたい……などなど。世の中の悩みのほとんどが人間関係だというのは真理だと実感した。  そして私はいい商売を思いついた。 「あなたの切りたい縁を、後腐れなく切ります」  そう謳うと、たくさんの人が、半信半疑ながらも、すがるようにして集まって来た。  それどころか、いつまでたっても客足は絶えなかった。だから思い切って会社を辞め、事務所を借りた。  最初は不安定な仕事に不安もあったけれど、杞憂だった。最近では、ひっきりなしに来る依頼に追われ、二ヶ月待ちにすらなってしまっているほどだ。しかし一人でやるしかない秘密の仕事は、分担しようにもできず、誰かに話すこともできないので仕方ない。  仕事は忙しくともやりがいがある。会社勤めでは上司の顔色を窺っていた毎日だったが、今では皆、私を頼ってやって来る。私はただ糸を見つけて切るだけなのに。以前、ハサミを売っていたあの女性は、「ハサミを使うことは、その人の人生の一部を切り取る」のだと、言っていた。重みを伴うことだとも。しかし、誰もが望み、そして私に感謝しているのだ。何の責任を感じる必要があるだろうか。それに何より、他人の人生をハサミひとつで、いや、私の裁量でいじることができるなんて、なんて心地良いことか。ハサミを入れる瞬間、指に力を込め、運命の糸をひと思いに切る……指先から全身へと痺れるように伝わる興奮、その瞬間の快感はたとえようもない。いつの間にかハサミは私の一部であるかのように、むしろ最初から私のために存在するかのように、私の皮膚に、体温に、感覚に馴染んでいた。  天職かもしれない。目まぐるしく過ぎる日々は、かつてないほど充実し、経済的にも余裕ができた。それでも時々、何かが物足りないと感じてしまうのは人間の欲深さだろうか……  そんなある日、いつものようにハサミを入れたコートのポケットに手を入れながら歩いていると、懐かしい顔を見つけた。
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