一冊目 白紙のノート

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一冊目 白紙のノート

 私、伊東繭子は痛んでいた。助けを求めた相手は上司の上司、マネージャーの稲塚さん。イナヅカではなくイナツカさん。採用してくれた人で、直属の上司への相談も、かなりの確率で稲塚さんまで届いた後に戻ってくる。  仕事に出ようとすると足が動かない。仕事の服装に着替えてメイクも整え、靴も決めている。玄関から踏み出すその一歩が出ない。そんな自分に絶望すると、今度はストレスでおなかがくだる。肉体の不調でくだすのと違って三十分ほどこもりきりになる。諦めの気持ちとともに多重に青ざめてお手洗いから出ると、電話連絡をするべく固定電話の受話器に手を置く。プッシュボタンを押す右手が動かない。無断欠勤だけは避けたいので、中原さん、直属の上司にお断りのメールを送る毎日だった。  まだこうなる前には、季節が変わるたびに少しずつ服が派手になり、メイクが濃くなっていった。垢抜けたね、と声をかけてくる人もいるが、ケバケバしいだけだった。精神的に不安定なのを鏡の前でごまかしていたと自覚している。ごまかす相手が誰だったのかは今もわからない。わかりたくない。     
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