1人が本棚に入れています
本棚に追加
振り返った瞳は、最後に会った時よりずいぶん疲れてるように見えた。
金曜日の夜。酔客も多い私鉄の駅。瞳も私も学生時代から住んでいる町だ。大学まで三駅。活発な瞳は自転車もよく使っていた。
就職した後も、私たちはこの街に住み続けている。
改札を出たところで、久しぶりに瞳の後姿を見かけて、私は小走りで追いかけて、肩を叩いたのだ。
家に帰る途中と言う瞳を誘って、駅前のコーヒーショップにはいった。
「会社、辞めてきたんだ」
カフェラテのカップを握りしめたまま、彼女はぽそっと呟いた。今日が最後の出勤日で、今月いっぱいは有休を消化するそう。
「どうしたの? なにかあった?」
確か最後に会ったあの日は、忙しいけど元気だよ、新しいプロジェクトの班にはいるんだ、と明るく笑っていた記憶があった。あの日から三ヶ月、いや、四ヶ月程度しか経っていない。
「……この年齢で恥ずかしいんだけど……」
瞳が口ごもるのを、私は促す。
「いじめっていうか……」
意外な言葉に、私はえっ、と声をあげてしまった。
「社内で? 誰から?」
「取引先の社員から……新規プロジェクトは、その取引先との合同企画だから、何度も相手先にいったり、向こうもこっちの社に来ることがあったんだけどね……」
件の社員は、30代の女性だと言う。
仮にAさんとするね、と瞳は話し出した。
瞳の会社からの発案であるそのプロジェクトは、ターゲット層が20代の独身男女ということで、若手でチームが編成された。他のメンバーは、瞳の先輩にあたる男性社員3人。この4人で、企画を推進することとなった。
とは言っても、瞳はまだ入社二年の若手も若手であり、今回は先輩方のサポートをしつつ、勉強も兼ねての参加だった。それでも同期の中では大抜擢であることは間違いなかった。
なので、瞳は頑張った。先輩方もフォローしてくれ、その班は上手く回り始めていた。
そしてパートナーとなるAのいる会社との初回ミーティングに出向いた。
名刺交換や挨拶を済ませ、ミーティングが始まる。瞳の最初の仕事は、企画の概要を説明することだった。とは言え、すでに資料は前日に相手側に渡しており、ほぼそれと同内容を口頭で説明するだけだった。
緊張しつつ、瞳はパソコンでパワーポイントを操作しながら読みあげる。
三枚目にさしかかった時、Aが手を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!