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さらっと長いストレートのロングヘア。グレーのタイトスカート。細面ですこし釣り上がった目。整った顔立ちの美人。いかにもキャリアウーマンといった風貌の、相手企業の班の中では年長でリーダー格の女性だ。
瞳はどきりとしながら、なんでしょうか?と問いかけた。
「よくわかりませーん」
ビジネスの場ではあまり聞かれない言葉。
その瞬間、瞳の背筋がぞわっと悪寒が走ったそう。
動揺した瞳が、絶句したことに気がついたのだろう。瞳の班のリーダーである松本が助け船を出してくれた。
「どういった点でしょうか? ひとまず一旦概要を説明させていただいて、その後、質疑応答の時間をとらせていただこうと思っておりました」
そつのないフォローだった。
「ん~~彼女の説明が判りにくいのかしらあ? なんだか伝わってこないのよねえ」
しかし松本のそのフォローも空しく、Aは髪をかき上げながら首を傾げる。
瞳は、自分が足が震えていることに気がついた。
何が?
何がダメだった?
資料どおりに説明しているはず。
昨日、班内でリハーサルもして。
問題なかったはず、問題なかったはず。
早口だった?
読み方を間違えた?
脳が一気に回転する。でも、答えは見つからない。
気まずい空気が、ミーティングルームに充満する。
「では、僕が代わって説明します」
席から立ち上がったのは、瞳より一年先輩になる高谷だった。
その言葉に班の面子が、一様にほっと胸をなで下ろした空気が伝わってきた。ともかくこの気まずさを今はなんとかしたい。それはこの部屋にいる全員がそう思っていただろう。
Aを除いて。
「でも、それじゃ解決にならないんじゃないかしら? 彼女で大丈夫なのかしら、このプロジェクト」
社会人になってから、幾度も失敗をして、上司に咎められたり、説教をされたことはある。
でも、それも自分に非があったり、落ち度があったからだ。その度に反省したり、勉強しなおしたりして、同じミスはしないように気をつけていた。
今回の抜擢も、瞳のそういった努力が認められてだった。
私、今、何を失敗したの?
瞳の頭の中では、そのフレーズだけが繰り返された。
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