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「その以前のプロジェクトなんですが、微妙に上手く進まなくて困っているようでした。主に連絡係は佐藤先輩だったようなんですけど……」
高谷は、首を少し傾げながら続ける。
「難しい問題があったわけではないんですが、なぜか上手く進まなくて、佐藤先輩も対処に追われていたみたいなんです」
「あの頃、佐藤ちゃん、体調も悪そうだったよなー」
ふうと、矢野が溜息をついた。
「佐藤先輩が休職することになって、僕がはいったわけですけど……特に僕から見て、大きい問題はなかったように思いました」
そのプロジェクトは多少日程に遅れは出たが、無事に終了した。
「佐藤先輩は、結局その後退職されてしまったし、僕にとって、なんとなくすっきりしない仕事でした。その時のあちら側のリーダーもあのAさんだったんです」
その話を聞いて、松本も矢野も顔を見合わせる。
「まあ、気むずかしい人なのかもしれないな」
松本がひとまず、そう結論を出す。
「めんどくさい人はどこにでもいるからな」
冗談めかして矢野が言う。今後は気を使っていこうと、その場は納まった。
「私も気を取り直して頑張ろうと思ったんだけど……」
カップを握った手首が、以前より細くなったような気がする。ベージュ色の腕時計のベルトが緩そうだ。
「そのAって女が問題だったの?」
私が問いかけると、瞳が頷く。
「二回目のミーティングの時、相手側の部長さんも顔出してくれて、名刺交換することになったんだけど……」
ミーティングルームに現れたのは40代の男性だった。がっちりとした、若い頃はなにかスポーツをやっていたと思われるような体格だった。
「今回のプロジェクト、期待してますよ!」
大きな声が通りがいい。やり手といった印象だった。
「部長。こちらが、リーダーの松本さんです」
瞳側を紹介しているのが、例のAだった。Aの部下の二人は、その様子を見守っている。印象の薄い若い男女だった。もう瞳は名前も思い出せない。
「はじめまして、松本と申します。よろしくご指導お願いします」
松本が名刺を差し出し、交換した。瞳も、名刺ケースを片手にその順番を待った。
矢野、高谷とキャリア順に紹介される。次は自分だと、笑顔を作ったところ。
「では、部長は次の会合がありますので、これで失礼させていただきますね」
Aは名刺交換の場を締めてしまった。
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