431人が本棚に入れています
本棚に追加
「……それ以上やかましく動き回るでない」
アイラは黒龍と組み合った。しかしそれはお互いに命を取れる距離に近いという意味でもある。アイラが組み合った瞬間に黒龍はアイラの首元へその凶悪な牙を立てた。
急がないと駄目だ。あの距離はどう考えてもまずい。もっと集中しろ。視界を脳裏に焼き付けろ。そんな俺の焦りとは裏腹にアイラは優しい声で俺に語りかけてきた。
「焦るでない。集中しろ。少年なら大丈夫じゃよ」
しかしアイラの首元は既に出血が見える。黒龍の牙は徐々にアイラの鱗を貫通させているようだ。黒龍は首元に噛み付いたまま跳躍しアイラを地面へと背中から叩きつけた。
「アイラ!」
俺はその首元を見て声を出した。先程とは明らかに違う出血量だ。首元の鱗を貫通したのだろう。薄らと血塗られていた先程の状況とは明らかに違い真っ赤に染まっている。
「妾がこやつをここから動かせぬ。やってみせろ少年。目を瞑れ。今この瞬間を焼き付けろ。帰ったら一緒に空を飛ぶんじゃろ?」
その声を聞いて目を瞑る。大丈夫。イメージは出来た。あとは魔法を唱えるだけだ。
「ふぅ……」
自分を落ち着けようと深呼吸する。 鼻から空気を取り入れ吐き出す。辺りからは僅かに血の匂いがする。それはアイラが黒龍を止めてくれた頑張りの証拠だ。報いなきゃいけない。
「ラオムムーブ」
俺は目の前の空間を目を瞑ったまま割る。繋げた先をしっかりとイメージしたままもう1度魔法を唱える。
「断空」
最初のコメントを投稿しよう!