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まるでボスと手下、そんな関係にも見えるが、大喜君は昔から円兄ちゃんに憧れているらしい。それこそ僕と仲良くなったのも、僕が円兄ちゃんの弟という縁があったから。
「た、大喜君! もういいから、行こう?」
このままじゃ大喜君は円兄ちゃんがバイトに行って姿が見えなくなるまでここを動かないかもしれない。僕が促すと「そうだな、志之介を遅刻させる訳にはいかねーし」とやっと頭を上げてくれた。
兄ちゃん達と別れて学校へ向かう道のりでも、大喜君の興奮は冷めていないらしい。「円さんに会えるなんて、今日はラッキーだな!」とグッと拳を握り締めていた。
「大喜君、ホントに円兄ちゃんが好きだね」
「おうよ! 円さんといえば伝説の百人斬り!! 一晩で百人もの族を相手に戦った伝説があるんだぜ? カッケーよな!!」
「あ……うん……」
実際には百人も居なかったって、円兄ちゃんに聞いた事がある。噂が一人歩きして、いつの間にかそんな話になったんだと。
そもそも学生時代の円兄ちゃんはそんなに夜に外を遊び歩かなかったし、その噂の相手は五人くらいだったらしいし。
いや、五人相手でも凄いんだけど。
「志之介は兄弟だから円さんの凄さを解ってねーんだよ。円さんが学校卒業してからも伝説が残ってるし、未だに名前を出せばビビるヤツらがいっぱい居るんだぞ?」
後世に名を残せるのは偉大だからだ、と大喜君がうっとりと目を細める。
これだけ円兄ちゃんに心酔している大喜君の夢を壊しそうだから、本当の事は言わない。言える訳無いじゃん、ガッカリさせたくないし。
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