0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女と出会ったのは彼女が入学して間もないころだったと記憶している。俺たちの学校は駅から少し離れているため、徒歩かバスで行くことになる。基本的に俺は徒歩なのだが、その日はたまたまバスに乗っていた。そこで席に座り、偶然隣に座ってきたのが彼女だ。
学校近くのバス停へ着き、降りるときになったら、隣の彼女が降りようとしない。俺は窓側で彼女が通路側。彼女が降りないと降りられない。いや、降りようと思えば降りられるんだけど。
横を見たときに彼女の様子がおかしくて、そうこうしているうちに彼女も俺のほうを見てきて、それはもう不安に満ちた顔で目はちょっとウルウルしていて声をかけないわけにはいかなかった。どうかしたのかと聞けば、か細い声で財布忘れちゃってお金なくてそれでって。制服のリボンを見たところ一年生で、先輩という立場上見過ごせるわけがない。いやたとえ後輩じゃなくとも、そんな不安そうな顔で見つめられたら助けないわけがない。じゃあ俺が払っとくよと言って一緒にバスを降り、事なきを得た。
彼女は、本当にありがとうございます。「必ず返しますので、名前を」と言ってきたが、俺は格好つけたかったんだろう。いいからいいから、ほら遅刻しちゃうからお行きなさいと彼女を行かせた。
いやーいいことしたなあと、余韻に浸りそのあと遅刻したのは秘密だ。
後日、彼女はどう調べたのか俺の名前と教室を調べ上げ、バス代を返しに来た。それから、廊下であえば「センパイ」と親しく接してくるようになった。話しかけられれば話すし、偶然帰りが一緒になり「一緒に帰りましょ」なんて、いかにも可愛らしい後輩を演出してきやがるがそれを無下にできるわけもなく駅まで話しながら帰ったりという程度の関係性。そこに俺は恋愛感情は抱かない、きっと彼女もそうだろう。ただ仲のいい先輩と後輩。それだけだ。ただ、彼女もまた水瀬と同じように男子からの人気は高く俺が言うのもなんだが可愛いのだ。
「さて困った。二人から誘われるなんて俺には絶対にないと思っていたシチュエーションだ」
クラスメイトか、後輩か。どちらを選ぶべきか。俺は返信を悩んでいた結果寝てしまった。
そして、朝起きて、現実なんだと思い知らされ、あああああ。学校へ着いてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!