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「そこで立ってるのもなんだから、部屋で待つか?」
正也は部屋の鍵を開けたけれど、麻奈は首を横に振った。
「私、そろそろ帰るわ。」
もうこれ以上待っても、勇平には会えない気がした。
「これ、勇平君に渡して。」
麻奈は買ってきた勇平へのプレゼントを、正也に渡した。
「ああ。」
それ以上正也は、何も聞かなかった。
「じゃあね、正也。」
麻奈は、正也に背中を向けた。
「麻奈。気を付けて帰れよ。」
「……ありがとう。」
麻奈は勇平のプレゼントを、正也に頼んだまま、自分の家に足を向けた。
夜10時。
麻奈は、自分の部屋の電気をつけた。
手袋を外し、コートを脱いだ。
まだ温まっていない部屋の中で、心は一層寒さが増す。
会いたい。
でも会えない。
恋をしている誰しもが経験する事を、この時まで麻奈は、自分には関係ないとまで思っていた。
ずっと勇平と、二人で暮らしていたからだ。
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