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私を疑っているわけではないのだろうが、仕事柄気になるのだろう。
小野寺は身を乗り出して訊いて来る。
「それがな、電車の真下に遺体がある状態でな?ホームと車両の隙間から見える状態だったんだよ」
「・・・みたんですか?」
「結論から言うと見た。怖いもの見たさでな・・・迷いはしたんだが私の隣オッサンが突然声をかけたんだ。『兄ちゃん、見てきぃや』って」
「大阪人ですかぁ」
「大阪人だねぇ・・・それで見はしたんだけど・・・ジーンズを履いた下半身しか見えなかったよ。でも、遺体を見たというよりも"そういうモノ"があったって感じだったな・・・上手く言い表せないけど」
「うへぇ・・・あ、ちょっと貰いますよ」
小野寺は私に断わってから薄く赤い梅酒サワーのグラスに手を伸ばす。
「あぁ、どうぞ。それで10分ほどしたら人を轢いた電車が発車するってアナウンスが放送されてね。そのまま乗ったんだよ。遺体のある真上に・・・」
私は小野寺から返そうと伸ばした手からグラスを受け取った。
そのまま口につけず氷で音を鳴らすように少し揺らした。
「小野寺、君はどうなんだい」
「なにがでしょうか」
「その・・・人身事故の瞬間を目の当たりしたりとかはしたのかい」
「それは・・・」
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