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「いや、全然怖い話じゃないんですけどね?」
マグロユッケを食べようとしていた手を止め、私は子供のように目を輝かせ小野寺の話を待った。
「僕の勤務している路線で、僕が休んでいる時なんですけどね。ある若手運転手さんが人身事故にあっちゃったんですよ。簡単に言えば飛び込んできた人を跳ねちゃったんですけどね」
私はじっと小野寺の話に耳を傾けた。
「現場検証も遺体回収も終わって、気持ちを入れ替えて仕事を続けたんですけども、上りの線が終わって、下りの線で数駅走ったらまた人身事故で人を轢いちゃったんですって」
「一日に二回も人身事故に遭遇することもあるんだ」
「そうなんですよ。それで『やだなー、今日はツいて無いなー』ってテンションすっごい下がったらしいんですが、下りの終点まで戻れば今日の仕事は終わるからなんとか気合をいれて運転を再開したんですよ」
「そりゃぁ仕事する気もテンションもダダ下がりするよね」
「おまけに終点までにもう一人轢いたんです」
「えっ!?ということは一日で三人も轢いたのか?」
私は思わず小野寺に確認してしまった。
「そうです。運転手の彼女は泣きながら『私、もう無理です』って言ったそうです」
「そりゃぁそうだろう」
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