彼女との日常

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風に(なび)いて互いに身を寄せ合う花を見渡しながら歩を進める。 それらの色は赤、白、ピンク、黄色など様々で、それぞれ違った表情を浮かべて僕を歓迎してくれているように思えた。 これらが何の花なのかまでは僕には分からない。ただ、そんな中でふと一輪の花が目に留まった。 それは周りに並ぶ花よりも背丈は低いが、その可憐さと相反してシャンと背筋を伸ばす姿に強さを感じさせる、優しい表情を浮かべた黒色の花だった。 僕はその花と、秘密基地で僕の帰りを待つ彼女の姿を重ねる。 きっとこの花は彼女に似合うはずだ。 そう思いその花を一輪摘むと、ほのかに届いたチョコレートの香りが僕の鼻を(くすぐ)った。 今まで様々なプレゼントを彼女の待つ秘密基地へと届けてきた。 だが、今回選んだこの一輪の黒い花は今までには感じたことのない忙しない胸の高鳴りを僕に与えていた。 これを彼女はまた喜んでくれるだろうか、 ダンボール箱で作られたコレクションルームへと加えてくれるだろうか、 そんな一物の不安と期待による昂りなのだろうとその時の僕は思っていた。 凛とした面持ちのその花が、どこか悲しい表情を浮かべてこちらを見つめていたことに僕は気づかず、彼女の待つ秘密基地への帰路に就いた。
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