淡い秋桜

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まさか、河川敷の方に行ったんじゃ……。 動揺のあまりに頭がぼーっとしていて考えが回らなかったが、河川敷からの帰り道の途中でも彼女の姿は見当たらず、これだけ街中を探しても見つからない。 であれば、帰り道ですれ違ったのかもしれない。足を止めずにそのまま住宅街を駆け抜けて河川敷へと向かった。 空には暗雲が立ち込めてきている。そんなことはどうでも良かった。 気が付けば雨も降り出してきて。それでも一心不乱に彼女を探した。 どれだけ走り回っていたことか。知らない間に体中が擦り傷だらけになっていた。 会いたい。顔が見たい。抱きしめたい。 ただ彼女のことだけを想って河川敷を走り回った。 今までに感じたことの無い焦燥感と動悸に気が動転していて、油断をしたら意識が薄ら薄らと遠のいていってしまいそうになるのを感じる。 しかしそれでも、わずかに脳裏に響いた彼女の声を僕が聞き逃すことは無かった。 っ……! 途端、僕は足を止めると耳を立ててその声のする方に意識を向ける。 一見すれば辺りには先程降り出した雨粒の音しか聞こえないが、僕には確かに聴こえた。ここから真直ぐ、あの背の高い草むらの向こう側から。彼女の呼ぶ声が。 ……。……。……! また聴こえた、あっちだ! 僕は駆け出した。 茂みの中を突き進み、確かに届いた彼女の声を頼りに、一目散にその声のもとへ。 草を掻き分けて、ようやく彼女に会えるという期待に胸を膨らませ、無我夢中に走り抜けたその先には、 彼女の姿があった。横たわる彼女の姿が。
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