淡い秋桜

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淡い秋桜

河川敷を挟んだ住宅街の小道に差し掛かり、道沿いに真直ぐ。 何度も何度も通った道。この花を彼女に手渡し、明日河川敷へ、この花を摘んだ場所へと一緒に行く約束をしよう。 突き当たりを右へ、その先二つ目の家を越え左へ。 一歩、また一歩と彼女のもとへ近づいていると思うと、胸の高鳴りが増していく。 少し歩いてまた右へ。 一秒でも早く彼女の喜ぶ顔が見たい。気が付けば僕は小走りで道を進んだ。一輪の花を大事に抱えて。 向かいに聳える家々の間の細いスペースを通り抜け、 左を覗いたところには誰にも使われていない藪に囲まれた小さな小さな空き地がある。 そして、そこに彼女の姿は無かった。 僕は我を忘れて必死で街中を走り回った。 彼女があの場を離れたことなんて一度も無かったのに、いつも僕の帰りを待っていてくれたのに、秘密基地の何処にも彼女の姿は見当たらなかったからだ。 今までにない事態に僕は焦っていた 。誰かに見つかって連れて行かれたのか、他の動物に襲われて逃げ出した、或いはもう既に……。 心の底から嫌な予感がふつふつと湧き出してくるが、 彼女も元々はこの街で暮らしていたのであれば以前の住処に行っているだけかもしれない、 空腹のあまり自分の足で食べ物を探しに行っただけかもしれない、 そんな淡い期待でそれらを押し殺し平静を保とうとする。 家々の間の細い隙間を逐一覗き込み、 茂みの中も入念に探して周り、 彼女との出会いの場であるゴミ置き場にも行った。 しかし、何処にも彼女の姿は見当たらない。 たかが一秒の時間の流れさえ今はとてつもなく重くのしかかり、不安、焦り、恐怖が僕の心臓を握り潰さんとばかりに痛めつける。
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