第十二章 見えざる敵

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 キス……しちゃおっかな。  顔を愛氣の唇に近づける俺。 《ブルブルブルブル……》  な、なに考えてんだ。  この卑怯者!  でも、この気持ちをどうやって抑えろって……。 「う、う~ん」  あっ! 不用意に頭なんか振るから起きちゃったよ。 「……着いたの」 「う、うん」 「そう。じゃあ降りよっか」 「そ、そうだね」 「降りないの?」 「降りるよ」 「じゃあ降りてよ。直人が降りないとあたしも降りれないんだから」  愛氣、愛氣もそんなに俺のことが好きで車からも一緒に降りたいのか。  と言うわけじゃなくて、ただ単にドア側の俺が降りないと邪魔なだけなんだよな。  でも……。  その、今は動きたくても動けないんだよ。  とある事情で。 「早くしてよ」 「分かってるけど」 「どうしたの? 前屈みになって」 「ちょっと腹が痛くて」 「え? 大丈夫?」 「ちょっとダメかも」  腹を押さえる俺。 「宍戸に投げられた時どこか打ったんじゃ」  そう言って愛氣が俺の腹に手を伸ばして来た。 「だ、大丈夫だから。愛氣、先に降りてて。少ししたら行くからさ」 「そう。じゃあ前|跨(また)ぐよ」  そう言って愛氣は俺の膝を跨ごうとした……。 「キャッ!」 《ドスンッ!》  愛氣が俺の膝に引っ掛かりそのまま膝に座ってしまった! 「ウッ!」  下半身がヤバい状態なのに『モロに』愛氣のお尻が当たって更にうずくまる俺。 「ゴメン! 大丈夫だった?」  慌てて立ってドア側に行く愛氣。 「ダイジョブだよ」  ホントは色んな意味でダイジョブなんかじゃないけど。  今のショックでなんとか治まったのはラッキーだったぜ。  ここで一こと言っておくけど、別にいやらしいことを考えたから『こう』なったんじゃないぜ。  男ってのは極端に疲れると勝手に『こうなる』時もあるんだよ。  でも『いやらしいことも考えたからでしょ』と突っ込まれれば何も言えないけど……。  とにもかくにも俺達は車を降りた。
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