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十、虎の咆哮(ほうこう)
「それでは鮫嶋さん。私達はこれで」
「嘘だ……我が柔道部が、他武道の、それも白帯や女子なんかに負けるはずが……」
よっぽどショックだったのか、鮫嶋はうわ言のように同じ言葉を繰り返していた。
「鮫嶋さん?」
魂を抜かれたみたいになった鮫嶋は、宏治郎さんの言葉も聞こえていないみたいだ。
「……それじゃあ、みんな行きましょうか」
そのまま鮫嶋の横を通り過ぎようとした時。
「ちょっと待ってください!」
鮫嶋は急に正気に帰ったように大きな声で、俺達を呼び止めた。
振り返る俺達。
「上杉先生っ!」
「なんじゃな?」
「愛氣さんを我が校に転入させて是非柔道部に!」
な、いきなり、なに言い出すんだよ! 口ひげの顧問。
「ほう。愛氣が柔道部のう」
「ハイ、是非。愛氣さんの実力なら全国制覇も夢ではないかと」
確かに愛氣ならやれるかもしれない。
「無理じゃよ」
「え?」
「愛氣は柔道では、そうそう簡単には勝てんよ」
「な、何をおっしゃってるんですか。愛氣さんのあの強さ。まさしく柔良く剛を制すもの」
「確かに、お主の言う通りじゃ」
「それなら……」
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