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「じゃがの。柔道の『試合』となるとまた別じゃ」
「いえ、そんな別などでは……」
「試合にはルールがある」
「そ、それは試合ですから」
「ワシも昔やっとったから分かるが。組んだところからしか技をかけてはいけない。肘以外の関節技の禁止。手首のみを持っての技の禁止、背中をついたら一本……」
「はあ……」
鮫嶋は『何を当たり前のことを』と言った顔をしている。
「他にも色々あるがの。もし、今日の組手も柔道のルールの中でしていたら愛氣個人はともかく、団体戦ではウチの負けじゃったろう」
確かに、俺達は柔道のルールでは反則や一本負けになってることだらけだ。
「それは……」
「それに……」
言いながら虎蔵じいさんは優しい目で愛氣を見た。
「この娘(こ)は『合氣道』が好きなんじゃよ」
「……」
「鮫嶋さん。そう言う事ですので。行きましょう、父さん」
宏治郎さんに促されて俺達は歩き出そうとした。
その時。
「待ってください!」
立ち止まる俺達。
「鮫嶋さん、しつこいですよ」
「愛氣さんのことは『今は』諦めます」
オイオイ、『今は』ってことは『いつかは』引き抜こうって思ってるってことじゃんよ。
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