story.1 -君の存在-

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-Uno side- 宇「おはようございます!今日から三日間、宜しくお願いします!」 取材をさせてもらう西島さんは、今話題のアーティスト。 若い女の子の中では知らない人の方が珍しいくらい、若い世代に圧倒的な人気を誇っている。 そんな相手だからこそ取材をきちんとしなきゃ、成功させなきゃと、改めて思う。 だけどそう考えるほどに、あの日の記憶が蘇る。 入社したての初めての取材の時、自分の不手際のせいで、相手の方を待たせてしまい 取材の話が無しになってしまったこと。 失敗しないようにとマニュアル通りに仕事を進めれば面白みがない、と上司に怒られてしまったこと。 次は、次こそは、と。 もう絶対に失敗は許されない。 そう思うほどに、自分を繕い、追い込み、空回りしてしまう。 だけどそんなこと、今の私にはわかりっこない。 目の前のチャンスを逃すまいと、ただひたすらに全力で仕事に取り組むだけなんだ。 宇「本日はありがとうございました!また明日からもよろしくお願いします!」 深くお辞儀をし、最大限の笑顔を浮かべる。 作り笑顔だ、と思われても仕方ないくらい、無理してるなって自分でも思ってる。 だけど、自分の愛想の悪さのせいで仕事が失くなることに比べれば 自分が無理をすることがチャンスを掴む一番の近道なんだ。 そうしてきたおかげで失敗もしなくなったし、大きな仕事も少しずつもらえるようになった。 今まで取材をさせていただいた方たちにとって 私が心がけている笑顔は頭の片隅にあるかないかくらいだと思う。 それどころか、私の顔も覚えてもらえてるのか分からない。 普通の笑顔で覚えてもらえないのなら、もっとオーバーにしよう。 そして、次の仕事に少しでも繋げられるようにしよう。 もっと、もっと…。 そんな考えを持って初めての仕事だったのが西島さんだった。 西島さんは今まで取材をさせていただいた方々とは違う雰囲気を持っていた。 優しい眼差しの奥に、何かを見据える冷酷な瞳。 一つひとつの質問にとても真剣に答えてくださる姿勢。 何もかもが、他の人たちとは違った。 西「あのっ…」 宇「はい?」 その真っ直ぐで冷酷な眼差しが、私の心の奥までも、見透かされている気がした。 ……自分を繕っている、最大限の作り笑顔を。
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