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「ピロピロピロ~ピロピロピロ~」
外出しようとドアノブを握ったときにインターフォンが鳴ったので、伊藤タケルは「オッ」と声を上げ、思わず後ろにのけぞった。開けようかどうしようかと迷い、もう一度リビングに戻ってドアの外を写しているモニターを確認した。そこには中年の女性が立っていた。このアパートの住人だろうか。タケルはとりあえず通話ボタンを押した。
「はい」
「じゅんがいないんです、知りませんか」
「じゅん?」
子どもの名前だろうか。それにしても、何故ウチを訪ねてくるのだろう。
「じゅんて、息子さんですか」
「いえ、さらわれた子です」
モニターに写るおんなの目は、狂気を写しているワケではないが、言っていることがよく分からない。
「すみません、見てないです」
タケルがそう言うと、おんなはヒラヒラしたスカートを握り締めていたが、しばらく辺りをキョロキョロと見回した後、切羽詰まったような顔をしてモニターから消えた。
「まいるぜおい」
出かけようとしていたタケルはしばらく外に出ることができず、仕方なく大学の友人に遅れる旨の連絡を入れるため、カバンからケータイを取り出した。
それから数日後、学校からの帰り、アパートの階段を上ろうとして、階段の裏にいる先日のおんなを見つけた。内心驚いたが、タケルは気づかないフリをして鉄製の階段を上がり、カバンから鍵を取り出しながら自宅に向かった。するとおんなが、ガンガンガンッと階段を上がってきた。タケルは慌てて鍵を鍵穴に入れて回したが、おんながタケルの後を追ってきた。
「ねえ、どの子どもだったら好きですか?」
「は?」
息を切らしながら言うおんなに、タケルは仰け反りながら向き合ってしまった。
「あなた、子ども好きではないの?女の子の方がいい?それとも犬?猫?」
そこでおんなは優しい顔をしながら、「私は全部好き」と笑みを浮かべた。
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