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「ついておいで」
そう促され、煌は榛名の後ろをついて廊下を進む。
榛名は仕事と言っていたが、いったいどこに連れて行かれるのだろう。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。緋紗はまだ戻らないから」
不安が顔に出ていたのか、榛名は歩いている最中にそう言った。
なぜ、そんなことがわかるのだろう。
「……ここを進んだ先の一帯が王様の住まいになってるんだよ」
榛名は煌にぐるりと城内を案内して回った。
そんな中でも時折すれ違う人々は榛名に道を開けて端に控えて礼をとる。やはり榛名は只者ではない。
「そして、こっちが侍従たちの居室」
そう言って榛名は廊下を進んだ。
そして、その中の一室の前で立ち止まると、突然、部屋の扉をノックし、そのままガラリと扉を開いた。
「榛名さまっ!」
扉が開き切るより先に勢いよく誰かが部屋から飛び出してきて榛名の腰に抱きついた。見ると、煌と同じくらいの歳の少年だった。
「榛名様、あのね、僕……」
言いかけた少年の目が榛名の後ろにいた煌を捉えて、一瞬驚いたような表情になったあと、すぐに敵をみるような表情に変わった。
「なに、この子」
そう吐いた少年の瞳には、あからさまな敵意がこもっていた。
「こら、紫苑」
突然の出来事に煌が目を丸くして固まっていると、榛名が宥めるようにそう言って少年を諫めた。
紫苑と呼ばれた少年は煌びやかなで上質な衣服に身を包み、一目でただの使用人ではないことが分かる装いをしていた。
榛名が部屋の中へと進めば、紫苑はちらりと煌を睨みつけ、ここが自分の居場所とばかりに榛名にぴったりと寄り添って続く。
煌がどうしていいのかわからず入口の前で立ちすくんでいると、「入っておいで」と榛名に促された。なんとも気が進まなかったが、仕方なく部屋の中へと入る。
私室、なのだろうか。
それにしてはがらんとして飾り気がなく殺風景で、家具といえば大きな戸棚とソファ、そしてベッドがあるのみだった。
榛名は部屋を進みソファへと腰を下ろすと、紫苑も当然のようにその横に寄り添って座った。
「煌。この子は紫苑。王様のお付きのひとりだよ」
それを聞いても特には驚きはない。服装からして、煌とは違う世界に住む人間ということは明らかだ。
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