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時は夕刻。
日はもうすでに傾きかけていて、窓から夕日が差し込んでいる。
彼が向かっている先は宮殿の西端、使用人達が暮らす部屋が並ぶ一角だった。
宮殿で働く使用人たちは、この宮殿内、あるいは敷地内にある別棟に部屋を与えられている。
彼はある部屋に向かって一直線に歩いて来ると、何のためらいもなく、勢いのままドアを開いた。
そこは寝台が3台並んでいるだけの狭くて質素な部屋だった。人の姿はなく、ベッド以外には少しの私物が置いてあるだけで、がらんとしている。
「……チッ」
緋紗はある人物を探していた。仕事場にも姿が見えず、部屋までやって来たのだがここにも探し人の姿はなかった。
「ったく、どこに行きやがったんだ、あのガキ」
苛立ちのこもった声で呟き、緋紗が部屋の扉を閉めたのと、少年が廊下の突き当たりから顔を出したのはほぼ同時だった。色素の薄い、茶色味がかったくせ毛の少年だ。年は13、4いったところか。よれよれのお仕着せを着た少年は、緋紗と目が合うと、驚いた様子でその場に立ち止まった。
「え……、あ……緋紗、様」
「お前は、確か……」
少年の顔には見覚えがあった。
「おい、お前」
「はいっ」
宮中の使用人の中でも下っ端のほぼ雑用係というくらいの身分の少年にとって、緋紗は天上人のような存在だ。
こんな場所で緋紗のような人物に会うのは想定外だったのだろう。
少年は突然声をかけられて狼狽えた様子だったが、かろうじてその場に居直った。
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