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緋紗が手招きして少年を側に呼ぶと、少年は恐る恐るといった様子で近寄ってきた。
「千草だな」
「え……?あ、はい。そうです、けど……」
名前を知られているとは思っていなかったらしく、千草は名を呼ばれたことにぎょっとした様子だ。
「煌を知らないか?」
そう問いかけると、千草は瞬きをして肩をすくめた。
「えっ……煌ですか?……さあ、見てませんけど……」
「そうか」
たしかこの千草と煌とは同室で、同じ炊事場の使用人だったはずだ。千草が知らないとなると、煌は一体どこでなにをしているのだろうか。
「煌を見かけたら俺が呼んでいたと伝えてくれ。引き止めてすまなかったな」
もう行っていい、と手を振ると、一礼して千草はその場からバタバタと走って立ち去っていく。その後ろ姿を見ながら、緋紗は髪をかきあげてため息をついた。
来た道を引き返していくと、調理場や使用人のホールがある地下へと続く階段へとたどり着く。
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