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階段を通り過ぎ、さらに廊下を進んでいくと大きな扉がある。扉に隔たれたその先の空間は、王とその家族のための食堂となっている。
大勢の使用人の中でも表に出入りできるのは上級職の者だけ。扉のこちら側と向こう側では天と地ほどの差が存在する。
緋紗は扉を開くことなく、扉横の狭い螺旋階段を上がっていった。
一階と二階にも明確な住み分けがなされており、一般の使用人とは一線を画す侍女や侍従といった直接王族に謁見する上流階級の者たちが、二階に居を与えられていた。
緋紗の居室には二階の一角にある。
二階の廊下を進み、そのまま自室の前を通り過ぎようとして、ふと、足を止めた。
誰もいないはずの自室の扉の向こうから、微かな物音と人の声が聞こえてきたのだ。
物取りか。
しかし、ここは王宮の内部。
正面の正門はもちろん、宮殿への出入り口は全て管理され、内部各所には衛兵が駐在している。外からの侵入は不可能だ。
だとしたら、内部犯ということになるが。
扉に耳を寄せ、中の様子を伺う。
「煌……まずいって……緋紗様が……」
微かに聞こえて来た、聞き覚えのある二つの名。
ひとつは紛れもなく自分の名だった。
緋紗は眉をひそめて扉に手をかけると、一気に開いた。
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