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開かれた扉の先にいた少年が勢いよく振り返り、目を見開いて固まった。手にしていた紙がはらりと滑り落ち、緋紗の足元へと落ちる。
部屋は見るも無惨な様だった。
普段は整頓されているはずの執務室。
あらゆるキャビネットや引き出しは開きっぱなしで、執務机の上には乱雑に書類が広がっている。ソファの上も同様。部屋中ひっかき回された様子だった。
緋紗は床に落ちた紙を拾い上げた。紙を手に、少年の方へゆっくりと近づいていく。
少年は緋紗から目を離すことも、その場から動くこともできない。
「……驚いたな」
緋紗は少年の目の前で足を止めて、明るいくせ毛に触れた。
「なぜお前がここにいる。千草」
名前を呼ばれた千草は、すでに顔面蒼白だった。
「いったいここでなにをしている?」
緋紗の鋭い視線に耐えきれずに視線をそらすが、緋紗は俯くことを許さず、千草の顎を掴んで上を向かせる。
「ん?」
顔を覗き込めば、千草の瞳が揺れた。
「ーーおい、千草!」
不意に聞こえて来た少年の声。緋紗と千草は同時に声のした方向に視線を向けた。
千草から緋紗の手がするりと離れる。
緋紗は執務室に千草を残し、物音のする奥の寝室へと向かった。
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