通行証

9/30

2647人が本棚に入れています
本棚に追加
/391ページ
「通行証が欲しいんだ」 煌が緋紗を見上げて訴えてくる。 王宮から外に出るには許可が必要であり、許可を得ている証明となるのが通行証だ。 煌は宮廷の外へと行きたいがために、緋紗の持つ通行証を拝借しようとした、というのが今回のことの発端だそうだ。 あまりに短絡的な考えに、呆れてものが言えない。 これ以上ないくらい冷たい視線を向けられているにもかかわらず、煌は怯むことなく緋紗をまっすぐに見上げてくる。 「ね、お願い。一回だけでいいから」 呆れた。 よくこの状況で『お願い』なんてできものだ。 今にも鞭打たれるという、この状況で。 手にした鞭を手のひらにひたひたと当てながら、緋紗は心の中でため息をついた。 「黙れ。こんな盗人のような真似をするやつに、外出など許可できると思うか」 「何も盗ってないし、まだ何もしてない!」 「人の部屋をこんなに荒らしておいて、なにを言う」 「緋紗が帰ってくる前に片付けるつもりだった!」 こうもまあ、次から次へと。 口だけは達者になったものだ。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2647人が本棚に入れています
本棚に追加