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「通行証が欲しいんだ」
煌が緋紗を見上げて訴えてくる。
王宮から外に出るには許可が必要であり、許可を得ている証明となるのが通行証だ。
煌は宮廷の外へと行きたいがために、緋紗の持つ通行証を拝借しようとした、というのが今回のことの発端だそうだ。
あまりに短絡的な考えに、呆れてものが言えない。
これ以上ないくらい冷たい視線を向けられているにもかかわらず、煌は怯むことなく緋紗をまっすぐに見上げてくる。
「ね、お願い。一回だけでいいから」
呆れた。
よくこの状況で『お願い』なんてできものだ。
今にも鞭打たれるという、この状況で。
手にした鞭を手のひらにひたひたと当てながら、緋紗は心の中でため息をついた。
「黙れ。こんな盗人のような真似をするやつに、外出など許可できると思うか」
「何も盗ってないし、まだ何もしてない!」
「人の部屋をこんなに荒らしておいて、なにを言う」
「緋紗が帰ってくる前に片付けるつもりだった!」
こうもまあ、次から次へと。
口だけは達者になったものだ。
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