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「事情によって情状酌量の余地があれば先に話を聞いたでしょうが、あなたの発言はどんな理由があれ許されるものではないでしょう」
「それは……そうですけど」
「何か不満でも?」
「ありません」
すかさずそう答える。
下手なこと言って、また初めからやり直し、なんてことは絶対に避けたい。
誉稀はそそくさと服を直すと、浅葱に向き合った。
「あの……ひとつ聞いてもいいですか」
誉稀がおずおずと浅葱を見上げる。
「どうぞ」
「……あれ、緋紗様も聞いてました?」
「ええ」
「煌の声は……?」
「聞こえましたね。はっきりと」
やっぱり。
「……うわぁ……どうしよう……」
誉稀が両手で顔を覆う。
それを見た浅葱はため息をついた。
「人の心配をしている場合ですか。あなたも煌さんも自業自得でしょう」
「でも、俺が煌を誘ったせいで……」
浅葱がその言葉に眉を寄せる。
「……誘った? あなたが煌さんにあんなことを言うよう唆したのですか」
浅葱が再びパドルに手を伸ばしたのを見て、誉稀は慌てて頭を横に振った。
「いや、違います! そうじゃなくて! 俺はただ、煌が緋紗様と喧嘩したって落ち込んでたから、元気付けようと……」
「どういうことですか」
誉稀は浅葱の手元にあるパドルを目の端に捉えたまま、冷や汗をかきながら煌から聞いた話や昼の出来事を浅葱に説明した。
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