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誉稀がひと通り話し終えるまで、浅葱は口を挟まむことなく誉稀の話を聞いた。
「……なるほど」
浅葱は何か思案するかのように黙ったままだ。
「あの……煌、大丈夫ですかね……」
誉稀がちらりと浅葱を伺いながらそう尋ねると、浅葱は誉稀の肩に手を置いた。
「責任を感じるなら、あなたから緋紗様に説明したらどうです?」
「え……」
緋紗様に?
それはちょっと……。
「いらっしゃい」
断りの言葉を発する間もなく、浅葱は先に部屋の扉に向かって歩き出す。
「ちょ、待って、浅葱さん!」
「煌さんが心配なのでしょう?」
心配だけど、でも。
誉稀がためらっている間に浅葱はさっさと部屋を出てしまった。さすがにずっとこの部屋にいるわけにもいかない。
仕方なく部屋を出て浅葱の後ろをついて廊下を歩けば、すれ違う人たちがこちらを見てくすくす笑っているのに気付いた。顔見知りの同年代の子たちは浅葱の目を盗んで誉稀に同情の視線を送ってくる。
どうやら、自分たちの叫び声が城まで聞こえていたのは本当らしい。
……いったいどこまで聞こえていたのか。
湖畔の声だけならいいけど。
考えただけで恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
俯きながらただひたすら浅葱の足元だけを見ながら後についていくと、浅葱は急に足を止めた。
驚いて視線を上げると、そこは緋紗の執務室の前だった。浅葱はその扉を躊躇なく叩いた。
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