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すぐに中から短い返事が聞こえ、浅葱が扉を開ける。
……留守ならよかったのに。
浅葱の背後にくっついて執務室に入ると、部屋の主は机に積まれた山のような書類を前に、難しい顔をして座っていた。誉稀たちが部屋に入っても顔を上げることなく書類に没頭している。
彼は王宮の高官で、浅葱の上司で、煌の主人である人物。
噂に聞く緋紗は、眉目秀麗で、誰よりも仕事ができる完璧な人間。だが、完璧であるが故、部下にも一切の妥協を許さず、冷たく、厳しい。部下からは慕われているというより恐れられているという。
現に誉稀も、緋紗が笑っているところを一度も見たことがない。
「失礼いたします」
部屋に入ってすぐ、恭しく頭を下げる浅葱。
「ああ、早かったな。もう済んだの、か」
言い終わると同時に緋紗が顔を上げ、その目が誉稀を捉えた。ばっちり目があってしまい、思わず誉稀は浅葱のほうに身を寄せた。
誉稀から浅葱へ視線を移した緋紗は、浅葱に向かって眉を顰める。
「……おい。お前に任せると言っただろう」
「そちらはもう済ませました」
なんの話か分からず様子を伺っていると、再び緋紗の視線がちらりと誉稀を捉えた。
「それなら、何の用だ」
「実はご報告がございまして」
「報告?」
「はい。よろしいでしょうか」
「……ああ」
緋紗はそう言うと、作業を中断してペンを置いた。
「誉稀」
呼ばれて見上げると、浅葱がこちらを見下ろしていた。
「あなたから申し上げなさい」
そんなこと言われても。
誉稀が助けを求めて浅葱を見るが、浅葱は何も言わずに誉稀の背を押した。
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