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「誉稀。あなた、緋紗様にも自ら申し出ていましたがそんなに罰してほしいのですか?」
「え?」
「お望みなら、今夜にでも先ほどの続きをして差し上げますが」
……続き?
誉稀はその言葉の意味を理解して、パッと両手を後ろにやった。そんなこと微塵も望んではいない。
「いや、結構です! 全然、しなくていいです!」
誉稀は後退りながら全力で首を横に振った。
誰が好き好んで尻を叩かれたいと思うのか。
「冗談です」
焦る誉稀に向かって、浅葱はそう言った。
……もう本当に、浅葱も緋紗も本気なのか冗談なのかが分かりづらいからやめて欲しい。
誉稀ががっくりと肩を落とすと、不意に頭にぽんっと手が置かれた。
「あとで部屋に氷を届けさせますから、お尻を冷やして大人しくしていなさい」
ほんの一瞬の出来事。
少し遅れて浅葱に頭を撫でられたと理解する。
「誉稀」
呆然とその場に立ち尽くしている間に浅葱はいつのまにか先の廊下を進んでいた。浅葱に呼ばれて、誉稀ははっとして慌てて浅葱のあとを追った。
「休むのは今日だけですよ。明日は通常通り仕事に出てもらいます」
「……はい」
浅葱の斜め後ろを歩きながら、その横顔をちらりと見上げる。表情からは怒りや冷たさは感じない。
どうやら部屋に戻るよう言ったのは、罰ではなく浅葱の温情らしい。
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