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「……あの、浅葱さん」
「はい」
浅葱が誉稀の声に振り返る。
「……俺、浅葱さんのこと、鬼とか悪魔とか、本当は思ってませんから……」
誉稀がおずおずとそういうと、浅葱はふっと笑った。
「別に怒ってないと言ったでしょう」
「……本当、ですか?」
「ええ」
誉稀は心底ほっとして息をつく。
そんな誉稀の様子を浅葱はほんの少し微笑ましく思いながら眺めていた。
§
陽が完全に落ちた頃。
煌はひとり王宮の薄暗い廊下を歩いていた。日中の喧騒とは程遠く、人通りも少なく静まり返っている。
ご存知の通り、王宮には厳格な規則がある。
夜中に許可なく部屋を抜け出しているところを見つかれば、また緋紗の逆鱗に触れるだろう。そして、これから向かう場所もまた、厳しく立ち入りが禁じられているところ。緋紗が知ったらいったいどんな顔をするか。
だが、そんなことはもうどうでもいい。
緋紗と喧嘩して、湖畔で大声で緋紗の悪口を叫んだら少し心は晴れた。連れ出してくれた誉稀には感謝してる。
だが、部屋でじっと緋紗の帰りを待っているうちに、またもやもやが募った。それに、毎日毎日いつ帰ってくるかも定かではない緋紗を部屋でじっと待っているのも癪だった。
千草に会いたいという気持ちと、緋紗への反抗心。
ふたつが原動力となり、煌は暗い道をひとり進んでいた。
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