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「緋紗の目を盗んでここまで来たのは千草に会うためかな? 緋紗、煌が千草に会うの渋ってたもんね」
榛名には何もかもお見通しのようだ。
「あの、榛名様」
「なぁに?」
「……千草は元気?」
おずおずとそう尋ねると、榛名は微笑んだ。
「うん。元気だよ。千草に会わせてあげることもできるけど……勝手なことしたら、緋紗怒るよねぇ」
榛名なら、あわよくば緋紗に内緒で千草と会わせてくれるのでは、と煌はわずかに期待したのだがそうは上手くいかないようだ。
この様子では榛名は緋紗の了承なく煌を千草と会わせることはしないだろう。
「ずっとここにいるわけにもいかないよね。どうしようか。緋紗に迎えに来てもらう?」
最悪だ。
今、榛名と一緒にいるこの状況すら、緋紗に知られるのはまずい。衛兵に捕えられるのと同じくらいまずい。
榛名には関わるなと緋紗にはきつく言われているのだ。
榛名の手で緋紗に引き渡されるような事態は絶対に回避しなければならない。
「榛名様」
「ん?」
「緋紗には言わないで……お願い」
煌は榛名を見上げて懇願した。
必死の様子の煌を見て榛名は笑った。
「でも、煌ひとりで帰らせるわけにはいかないよ」
「大丈夫。道、覚えてるから」
こうしている間に、煌がいないことに緋紗が気付いて探しにくるかもしれない。
「また衛兵につかまるよ?」
それは、確かに。部屋に帰るまでの道中、衛兵と出会わずに部屋にたどり着けるかわからない。
どうしよう。
「まだ仕事が残ってるから、少しだけ待ってて。そのあと部屋まで送ってあげる」
他に代替案も思いつかない。
こうなったら榛名に従うしかなかないだろう。
煌は渋々頷いた。
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