スナーク狩り

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俺は来た道を走って引き返していた。 この小学校は俺が通っていた学校の隣の学区だった。 今いるところから先ほど歩き始めたところまでの間に住んでいる子どもたちは大半がここに通っているはずだった。 民家の中を確認しながら走っていると、ある家の玄関に三輪車が無造作に乗り捨てられているのが見えた。 俺はその家の前まで全速力で走っていき、ベルのボタンを押そうとして、ぴた、とその手を止めた。 見ず知らずの他人が突然訪ねてきて、その男に運動会のビデオを見せてくれと言われて、はいそうですかと見せてくれるような人がいるだろうか。 たとえいたとして、そのビデオに俺が映っている可能性は極めて低い。 ベルを鳴らすのを躊躇っていると、バスの中で読んだ新聞記事の内容が頭をかすめた。 『死刑執行後に冤罪発覚』 ええい、死ぬよりはましだと、俺は指を震わせながらベルを鳴らした。 「……はい」 「あ、あの、すみません、突然のお願いで申し訳ないんですが、ビデオテープを見せてはいただけないでしょうか」 俺はところどころ声が裏返りながら、インターホンに向かってつっかえつっかえ話した。 「……はい?」 「す、すみません。運動会のビデオでちょっと確認させていただきたいことがありまして……」 「あの、どちら様でしょうか?」 「ちょっと離れたところに住んでいる者で……あの、玄関先でビデオを確認させていただければそれで……」 「……すみません、お引き取りください」 がちゃり、と受話器を置く音がして、それからは何も聞こえなくなった。
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