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「......見つけた」
とある田舎町のケーキ屋。
古びた看板を掲げるそのお店を感慨深く眺めている年老いた男性がいた。
ジリジリと照り付ける太陽。どこからか吹く柔らかい風。
どれほど時代が移り変わっても、夏の季節は同じ香りがする。
白髪の髪を靡かせるその老人は、綺麗に磨かれたガラスから店内を見つめ、瞬き一つせず額にかいた汗も拭おうとしない。
ゴクリ、と生唾を飲み込んで、身を乗り出すようにガラスに顔を近付ける。
視線の先には、店内のショーウィンドウに並ぶ一つのケーキ。
それを食い入るように見つめ、眉間に深いシワが出来上がる。
「監督、そろそろお時間です」
突然声をかけてきた若い男の言葉で、悩まし気なシワが消えていく。
あー、と言いながら、耳たぶを触り、少し考えた後、
「悪いんだけど、1時間後にしよう、ちょっと用事」
そう言ってからまたケーキ屋を見つめる老人に、若い男は少し戸惑いながらも手に持っている丸めた資料をポン、と叩いて、分かりました、とその場を走り去っていった。
老人はガラスを鏡代わりに風に靡いた髪を軽くセットしてから、ふぅ、と一息ついて、店の中へと入っていく。
カランカラン......。
昔懐かしいベルが鳴り、しばらくしてショーウィンドウの向こうから店員の女性が顔を出す。
2人は目を合わせ、時が止まったように動かなくなった。
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