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仕事終わり、今日も行きつけのケーキ屋にお目当てのモノを買いに来た。
「少々お待ちくださいませ」
店員のおばさんが頭を下げ、奥のキッチンへと消えていく。
僕はネクタイを緩め、レジ下のショーウィンドウを眺める。
この時間だとほとんどが売り切れで、今日はあるかどうか分からない、僕の大好きなストロベリーショートタルト。
飽き飽きする同じ生活の中で唯一、至福の時間がこのケーキを食べている時。
あー、早く食べたい。
大学卒業後、とりあえず働き始めた会社では決まったエリアを回って取引先に商品である日本酒を運んでいる。
別にやりたい訳ではないけど、やりたくない訳でもないから何となく続けて今年で2年目。
なんとなく生きている自分へのささやかな褒美。
「申し訳ありません。今日はもう売り切れでして」
やっぱりか、と思いながら「分かりました」と軽く頭を下げて、おばさんの肩越しに奥のキッチンを見てみる。
ここに来るもう一つの理由である、瀬川さんを見つける為だ。
いつもお釣りをくれる時、そっと手を包み込むあの温もりが忘れられない。
女性経験の少ない男というのは意外と、そんな事だけでも恋に落ちるのだ。
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