ストロベリーショートタルト

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瀬川さんもいない。 お目当ての品もない。 ツイていないあの日から数日後、また僕はお店にやってきた。 いつものように「ストロベリーショートタルト一つ」と人差し指を立て、財布を用意しておばさんを待つ。 表情はそのまま心の中で強く祈ったけど、今日も「申し訳ありません」と頭を下げられてしまった。 キッチン奥へ行ってここに戻ってくるまでの時間だけで、今日はあるかないかが分かってしまう。 だからもうないんだろな、と思っていたらやっぱりそうだった。 眉を落として、仕方ないな、と踵を返した時ーー、 「お客さん、待ってください」 おばさんではない女性の声が僕を呼び止めた。 振り返ると、まさかの瀬川さんだ。 もう仕事は終わりなのか、いつもの制服姿ではなく私服。 帽子も被っていないから初めて彼女の髪を見た、ボーイッシュなショートカットで粟色。 クリクリした目はいつも通りで、ニッコリ笑うと八重歯がとても可愛い。 「一つだけ残ってました、お買い上げなさいますか?」 奇跡だ。一つだけ残ってたなんて。 しかもそれを瀬川さんが持ってきてくれるなんて。 嬉しくて声を出せず、子供みたいに大きく頷くと、瀬川さんはニコっと微笑み、ありがとうございます、とレジへ戻っていった。
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