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丁寧にストロベリーショートタルトを包み、小さな箱にいれている瀬川さんに思わず見惚れてしまう。
名札に書かれた名字は何度見ても飽きない。なんていい響きなんだろう、“瀬川”って。
「実はこっそり取っておいたんです。
お客さん、いつもこれ買いに来るから」
他の店員の目を気にしながら、声を潜めてそう言われ、あ、あー、と曖昧な返事しか出来ず、ぎこちない笑顔で彼女を見つめる。
「他のも買えばいいのに。美味しいですよ」
「あ、うん。また、買う」
言葉を付け足すような話し方にクスっと笑う瀬川さん。
優しい笑顔に優しい声。
こんなことならもっとしっかり髪型セットしておくんだった。
鼻毛出てたりしないかな? さっきコンビニで買ったチキン食べたから、口臭も気になる。
「もしお客さんが来なかったら私が持って帰ろうと思ってたのに。
なーんか残念、フフッ」
商品を綺麗に袋に入れ、今度はイタズラっぽく笑いながら、レジを叩き出す。
なんかごめん、と弱々しく言うと、チラ、と僕を見てまた微笑み「お会計、480円になります」といつもの店員さんの声に戻った。
500円を渡し、お釣りの20円を貰う時はやっぱり僕の手を優しく包み込んでくれた。
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