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水無月空。
その少女はいつもクラスの隅の方の席でひとりぼっちでいた。
クラスのみんなもその存在に気がつかないほどひっそりと存在していた。
それは入学式の日からずっとそうだった。
地味すぎて、きっと小学校の時に同じクラスでなかったら、僕でさえその存在を知らなかったかもしれない。
僕は両親の都合で転校し、そして高校生になって、またこの町に戻ってきた。
小学校時代の空はクラス委員をするほど目立っていた。
だからこそ、覚えているのだが、少なくともクラスの隅でたった一人でいるようなタイプではなかった。
だからこそ、最初は空がクラスメイトの水無月だとは気がつかなかった。
いや、変わった名前ゆえにそう思いはしたが、そのことはすぐに自分の中で否定された。
それでも面影は残っている。
そうじゃないかと思えば思うほど、気になって、本人のような気がしてくる。
小学校時代のアルバムを見る。
そこには笑顔の水無月。
「出席をとる。水無月空」
「…」
「いるな」
赤シャツのやつ、今日も真っ赤だな。
まったく赤いフェラリー、赤いシャツ。真っ赤な靴。
真赤な帽子。
派手にもほどがあるよな。
これで人気があるんだから、女どもの趣味が理解できないよ。
「なあ、空」
僕は思い切って声をかけてみた。
「空?」
何度呼んでも反応がない。
「どうしたんだ、今日はずっとボーっとしてるじゃないか」
僕は水無月の肩を叩いて、「空」と言った。
「誰のことを呼んでるんだ」
「お前のことだろ」
「空?それが私の名前か?」
「何言ってるんだ、ふざけてるのか」
「空?そうか、それが私の名前か?」
やっぱりおかしい。
絶対おかしい。
「私、忙しいから」
そういって早足で去っていく。
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