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待つ身には永遠に感じられるような数瞬の後、小林くんは口をひらいた。 「…うん、いいよ。…付き合おう」 キャッと、まどか達は声をひそめつつ喜びあった。麻子と小林くんはさらに二言三言ことばを交し、並んで駅への道を歩きだした。麻子は一瞬ふり返って、この世で最も幸福そうな顔でまどか達にめくばせをした。その瞬間、まどかは氷水につけた手で心臓をわしづかみにされたようなショックと、ぎゅっとしめつけられるような痛みを感じた。いっそ心臓がはじけてなくなってしまえばいい、まどかはそんなことを考えていた。 にもかかわらず、まどかは友達の前でごく自然に振る舞ってみせることができる自分にひどく驚いていた。あきれるほどにいつも通りに行動しているうちに、まどかは、いつの間にか自室のベッドに横になっていた。今、自分はひとりだ。それを自覚したとたん、まどかの目からは大粒の涙が流れだした。声をあげて泣いたのなんて、何年ぶりだろう。本当はもう、小林くんのことが好きになっていたのだ。まどかはそれを、今はじめて知った。それなのに、何もしないうちに、まどか自身がこの恋に気付かないうちに、すべてはおわってしまった。生まれたばかりのまどかの恋心は、何もしないうちにしゃぼん玉のようにはじけて壊れてしまった。真剣に考えた結果なら、受け入れられたはずなのに。でも、まどかはまだ何もしていない。考えることすらも。それなのに、この恋にはもう、どんな未来も残されていない。まどかにできるのは、一晩中枕を濡らして、ただただ泣くことだけだった。
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