第1章

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 OP  深夜のコンビニ。  冷房の音が多少聞こえる、物静かな店内。  俺はレジの奥に潜み、スマホで暇を潰していた。ちらっと客の方を見ても立ち読みだけで、買う仕草を見せず、ページをめくる。新たな来店もない。ま、来てもすぐに対応すればいいし、これで時給がいいんだからラクだと、深夜のバイトを堪能していた。  時刻は午前一時。  カップルらしい男女が立ち読みをしてる。男は少年誌を、女はちょっと旅行雑誌を見て飽きて、トイレに入った。それ以外はおらず、ほんと暇な深夜のコンビニ。  しばらくすると、一人の男が現れた。年若いカップルとは違い、四十代くらいに見える。薄い無精ひげが生えて、シャツはアイロンしてないのかシワだらけ、彼は飲料水を眺めると、興味をなくして雑誌コーナーへ。経済紙をちらっと読んで、やめて、次に読んだのは少年誌だった。 「……しかし、いい年して少年誌か。せめて青年誌読めよ。いや、俺読んでねーけど」  俺はまた視線をスマホに移す。課金したのにろくなキャラが出ず、舌打ちして、また深夜のバイト代を無駄に使う。 「す、すいません」と、女性客がレジから声をかけてきた。さっきのカップル、男の連れだ。何だ何だ、と立ち上がると。「その、あそこの人が…….」 「はい?」  あそこの人って何だろう。  女は雑誌コーナーに目をやった。おいおい、と俺も見ると、さっきの薄いひげの男が少年誌をビリビリと破いていた。 「え?」  意味が分からなかった。  それを見たとき、とっさに何をすればいいか分からず、教えてきた女を見てしまった。いや、こっちを見られても、と女も困る。俺も困る。 「い、いやいや」と、ようやくレジから離れ、雑誌コーナーへ。「お客さん。何やってんですか」  男は一人でビリビリと、ビリビリと破いていた。  近くにあの女の連れ、彼氏らしい若いのもいたはずだが、奴は冷蔵ケースのとこに避難して、遠くから眺めていた。この、クソ野郎。何てチキンだ。 「止めてください。何やってんすか」 「あ、はい」  と、男は俺に言われると、すぐに止めた。 「え? あ、あぁ」  いや、やめてくれるのは嬉しい。  だがしかし、すぐに止めるとは思わず、素っ頓狂な声を出す。 「ともかく、ちょ、待って」  俺はレジに行って、奥の部屋から店長の電話番号が書かれたノートを出して、電話をかける。って、あ。こんなことしてる間に、あの野郎逃げないか?
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