3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
OP
深夜のコンビニ。
冷房の音が多少聞こえる、物静かな店内。
俺はレジの奥に潜み、スマホで暇を潰していた。ちらっと客の方を見ても立ち読みだけで、買う仕草を見せず、ページをめくる。新たな来店もない。ま、来てもすぐに対応すればいいし、これで時給がいいんだからラクだと、深夜のバイトを堪能していた。
時刻は午前一時。
カップルらしい男女が立ち読みをしてる。男は少年誌を、女はちょっと旅行雑誌を見て飽きて、トイレに入った。それ以外はおらず、ほんと暇な深夜のコンビニ。
しばらくすると、一人の男が現れた。年若いカップルとは違い、四十代くらいに見える。薄い無精ひげが生えて、シャツはアイロンしてないのかシワだらけ、彼は飲料水を眺めると、興味をなくして雑誌コーナーへ。経済紙をちらっと読んで、やめて、次に読んだのは少年誌だった。
「……しかし、いい年して少年誌か。せめて青年誌読めよ。いや、俺読んでねーけど」
俺はまた視線をスマホに移す。課金したのにろくなキャラが出ず、舌打ちして、また深夜のバイト代を無駄に使う。
「す、すいません」と、女性客がレジから声をかけてきた。さっきのカップル、男の連れだ。何だ何だ、と立ち上がると。「その、あそこの人が…….」
「はい?」
あそこの人って何だろう。
女は雑誌コーナーに目をやった。おいおい、と俺も見ると、さっきの薄いひげの男が少年誌をビリビリと破いていた。
「え?」
意味が分からなかった。
それを見たとき、とっさに何をすればいいか分からず、教えてきた女を見てしまった。いや、こっちを見られても、と女も困る。俺も困る。
「い、いやいや」と、ようやくレジから離れ、雑誌コーナーへ。「お客さん。何やってんですか」
男は一人でビリビリと、ビリビリと破いていた。
近くにあの女の連れ、彼氏らしい若いのもいたはずだが、奴は冷蔵ケースのとこに避難して、遠くから眺めていた。この、クソ野郎。何てチキンだ。
「止めてください。何やってんすか」
「あ、はい」
と、男は俺に言われると、すぐに止めた。
「え? あ、あぁ」
いや、やめてくれるのは嬉しい。
だがしかし、すぐに止めるとは思わず、素っ頓狂な声を出す。
「ともかく、ちょ、待って」
俺はレジに行って、奥の部屋から店長の電話番号が書かれたノートを出して、電話をかける。って、あ。こんなことしてる間に、あの野郎逃げないか?
最初のコメントを投稿しよう!