鹿

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鹿

私の不注意だったんです。 ええ、ええ、疲れていたんでしょうね、そういえばウトウトしていたかもしれません。まさかこんな山の中、こんな夜遅くに鹿を車ではね飛ばしてしまうなんて。 ああ、しまった、なんてことをしてしまったんだ。 私は車から飛びだし鹿に駆け寄りました。 まだ息はありましたが、目玉は飛び出し内臓は零れ、もう助からないであろう事は明白でした。 私は少し躊躇しましたが、このまま長く苦しませることも可哀想だと思い、道ばたに落ちていた石を拾い、鹿の頭に二度、三度全力で叩きつけました。 少し暴れたものの鹿はすぐに息絶え、私はそれを確認すると手を合わせました。 さて、ここからどうしたものか。 車のフロントは大きくヘコんではいるものの、何か漏れている気配も無く、おそらくラジエーターまでは壊れてはいないでしょう。アイドリングも快調です。 ここから自宅まで5分もかかりません。 帰宅する算段はついたものの、鹿をこのまま放置していくわけにはいきませんよね。きっと誰かが通るだろうし、死体をこのまま放置すれば大騒ぎになるでしょう。 幸い、車には大きなレジャーシートを積んでいます。これに死体をくるめば、車を汚さずに持ち帰る事ができます。 その後は…本当にやりたくは無いですが、お風呂場で解体して、少しずつ処分していくしかないですね。当分はお風呂を使えなくなりそうですが、一人暮らしなのが幸いでした、文句を言う家族がいないので、時間的余裕はありそうです。 骨は少しずつ砕いたり、鍋で煮てしまえば無くなるそうですよ。以前なにかで読んだことがあります。 厄介なのが髪の毛だそうで、これは帰ってから処分の仕方を調べるしかなさそうですね。 行動計画はある程度決まりました。トランクからレジャーシートを取り出し、鹿の死体をくるみ、持ち上げ……られない。重い。 目算で60kgくらいでしょうか。一人で持ち歩くのは無理なようです。仕方が無いのでずるずると引きずり、悪戦苦闘しながらもなんとか車に積み込みました。 しかし、ああなんという事でしょう。血が道路を赤黒く染めているではありませんか。 誤算でした。これではすぐに発覚してしまいます。 もちろんこれだけの量を流せる水を車に積んでいるわけありません。 いったいどうすれば…。 せめて、シカをひき殺してここに置けばごまかしができるというのに。 (終)
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