第1章 満員電車の中

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 逃げようという意志が働いたのか、ちらっとドアの開いている方を見たが、強引に降りようとまではしないようだ。まだ降りる駅ではないのだろう。  俺も手放す気はない。強引に抱きしめながら、開いてるドアとは反対のほうに引っ張ってゆく。もともと降りる人は少なく、出口に向かう圧力がほとんどなかったのは幸いだった。  さらに乗り込んで来るほうは結構な人数がいた。ドアが閉まるぎりぎりまでどんどん押し込んで来る。満員電車がさらに進化して満員電車改になったと思ってもらえればいい。  その圧力を利用して、俺は閉まっているほうのドアに当たるまで移動した。実質、人間二人分くらいは動いただろう。  この位置だと後ろから誰かに見られる心配はない。ということは、やり方次第では尻以外のところにも、むふふのふである。  そんなことを知ってか知らずか、俺の手の中に女の子がいる。まだ小さな右手が俺との距離を保つ障害となっており、小さな左手はスカートの裾をつかんで抑えている。  それで大丈夫だとでも思っているのだろうけど、そうは問屋がおろさない。     
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