笑顔

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 私は礼を言い、では、と立ち上がった田中さんに先ほどから抱いていた疑問をぶつけた。 「後ろ姿とランドマークだけでは、個人の特定は中々難しいですよね。そんなに目立つ身体的な特徴が柊にはあったんですか?」  田中さんの唇の両端がきゅっと両耳の方へつり上がった。 「いえいえ。でも彼はいろいろな人の恨みを買っていましたから、いつか更生してくれるかもと見守ってきた人の堪忍袋の緒が切れてしまったのかもしれませんね」  ああ、眉毛や目じりに力を入れても人は笑えるものだな、と私はぼんやりと思った。確かに、猿の笑顔に似ていなくもない。
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