笑顔

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『人の迷惑を考えろ』  柊が文章を打ちこむたびに、即効で答えが返ってくる。 「いいじゃん、俺は楽しいし。問題ないじゃん」  それは、田中さんが柊にかけられた言葉だった。 「私は何度か柊に話しかけましたが、彼は聞こえていないようでした。しょうがないので、学校に登校してくるようにだけ言い残して、家を出ました」  家を出てすぐ、二人組の男性から柊の家はどこかと尋ねられた。田中さんが雨戸の閉め切った家を指さすと、二人組は笑いながらポケットからラッカーを取り出して足早にそこへ向かっていった。 「何が起こるかうすうす分かっていながら、私は何もしませんでした。二対一では不利でしたし、何よりも、あの二人の笑顔を見たとたん、止めようという気分がうせてしまったんです」  二人組が浮かべていた笑みは、目じりや眉根に力が入っているのに、唇の両端が耳たぶの方へつり上がった、かつての柊の笑みにそっくりだったという。  柊はその後高校を中退してどこかへ姿を消しました。実家はいつの間にか放火で焼けてしまいましたが、ずいぶん長い間焼け落ちた姿のまま、残っていた気がします。  と田中さんは話を締めくくってくれた。 「ありがとうございました」     
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