届け物

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 胴は背骨に沿って歯を下ろしていく。そうしてから、あばら骨に沿って少しずつ肉を削いでいく。半身一気に削いでいくのは大変なので、脇腹の骨の無い部分で肉を切り分けた。  次いで腰から下の臀部に取りかかる。骨盤に沿って、丁寧に肉を削ぐ。軟らかく、ステーキにしたら美味そうだ。残りの半身も同じ手順で解体をした。  ここで少し休む。大きめの鍋に湯を沸かし、沸騰するまでの間、水出ししたコーヒーを飲む事にする。  どれくらいぶりかなぁ。前回食べたのは一年以上前だ。コーヒーを口にしながら思い返した。  特別だから。  泣きながら言ったのは妻だった。  だから、お願い。食べて頂戴。  そうして口にしたのが最初。それからは定期的に食べるようになってしまったのだ。  そんな妻も、すでに居ない。初めての子供を産み月前に死産してから、精神を病んで、自ら命を絶ってしまったのだ。自分も同じ悲しみを味わったのに、妻だけが悲しみから逃げたのだ。それが恨めしい。妻のおかげで自分ばかりが業を担っている気がするのだ。  そんな事を言っても、今を変えられないのは解っているのだが、それでも思わずにいられない。  コーヒーを飲み干すと、苦味を強く感じ、少し顔をしかめてしまう。グラスを流しにかたし、私は改めてテーブルの肉塊に向き直る。     
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