リアルの自分

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  れーくん《最近変な垢見つけてしまった。僕の本名騙って、僕の大学生活についてつぶやいてるんだけど、情報がやけに正確すぎて怖い》   マキナ(@以下略)《@罰罰罰 くッ……私のストーカー行為もここまでですか。って冗談は置いといて、本当なられーくんの身が危ないような気がするので、早めに警察行ってください><》 マキナさんのアドバイスはもっともだ。だけど、こんな話、警察にしたところで信じてもらえるのかわからない。ツイートが、あまりにも正確すぎるのだ。たとえば、八時にアラームをセットするも、二度寝して三十分寝過ごしてしまった朝には、八時三十一分に   玄野玲(@以下略)《30分も寝過ごした、これは1限絶望的……怒りの三度寝移行かな?》 というツイートを残している。僕はその日の一限に、遅刻しながらも出席したが、実際のところ一瞬三度寝しようかと思ってしまったことは確かなのだ。大学内ならまだしも、家にいるときの行動まで正確に把握するならば、部屋に盗聴器か盗撮カメラでも仕込むしかないだろう。 しかし、第三者から見れば、一介の男子学生の部屋に盗聴器やカメラを仕掛けてまで、その生活を四六時中監視し、逐一それをツイッターに書き残している変質者がいるという仮定よりも、僕自身がこのリア垢を使って自分の生活を発信していると考えるほうが、はるかに自然なはずだ。まともに取り合ってもらえないどころか、僕のほうが異常者扱いされてしまうかもしれない。 そんな、気味の悪い出来事が、いっそう理解できないものとなったのが、およそ一ヶ月後のことだった。空きコマがあったので、大学のすぐ近くに住む友人の家で時間を潰していたのだが、強い雨が降りだし、再び大学に戻るのが面倒になってしまったので、後の授業は自主休講にして雨宿りしようという話になったのだ。 家主と僕を含めて、その場にいるのは四人。覚えたての麻雀を打つこととなった。 半荘戦を数回終え、ジュースを飲みつつ駄弁っていたときのことだ。卓を囲んでいた友人の一人がスマホの画面を眺めつつ若干おどけてこう切り出した。 「玄野ー、お前これプライバシーの侵害だって。俺のダサい服写っちゃってるじゃん」 そう言って彼が差し出してきた画面には、   玄野玲(自主休講して麻雀なう) というツイート。そしてまさに今自分たちが囲んでいる雀卓を写した写真だった。
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