第0章 禁断ノ調ベ

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 碓氷が一喝させるかのように、彼らに言い放つ。 「用心を怠るな。相手は神だ。そう簡単には倒せはせん」  兵士達に言い聞かせた後、彼は龍神の沈んだ湖の方に視界を向ける。  その目は険しく、警戒する狼のよう。  そんな碓氷を見て、兵士達は静かに御意をした。  巫女の儀式も終盤を迎えていた。  彼女の体が白く輝き始め、帯化もあと少しになった頃。 ーー……カヤ……。  彼女の頭に響くのは彼が優しく自分を呼ぶ声。  巫女はそのとき初めて自我を取り戻したが、もう遅かった。  自身の状況を察して、赤くにじんだ湖を見つめる。 ーー………ああ、これが”最期”なのか。  彼、龍神の死を察知し、そして自身の最期を感じ取ると、静かに涙を一滴零した。  ぽちゃん、と小さな音を立てて彼が沈んだ水面上に波紋を作り、少女は帯化した。  その帯は五つに分かれ、散り散りにヒラヒラと何かに向かって迷うこと無く飛んでいく。  宙に浮いた帯は大きな神木に入り込み、緑色の光を放った。  他のところも同様に光を放つ。 「これで、封印が施されたわけですね」 「よく分からねえが、これで終わったんですかな」  兵士達も恐る恐る碓氷に状況を訊ねる。 「まあ、今のところ一件落着ということになるかな」  碓氷がそう言葉を発したと同時に、  ワアアアアア!!!と威勢のいい男達の歓喜なる雄叫びが響き渡る。 「少女には飛んだ重荷でしたね……」 「彼女も島が大変な目に遭っていることも承知だった。それほどの覚悟はあったはずだ」  碓氷は龍神が落ちた方を見ながら歩き出す。 「この島の人々は神の所為で怯えながら暮らしていたのだ。これで少しばかりは島の方も落ち着いて安息な日々を過ごすことも出来よう」  彼の言葉に青年も笑みが零れる。  よかったよかった、と宴会のような場の雰囲気が醸し出しつつあった。  だが、一人。  碓氷は何か気になることがあるらしく、眉をひそめ湖のとある一点を睨みつける。 「どうされましたか」  側近の青年は碓氷に声をかけるも険しい顔のまま叫びだした。 「……怪しい動きがある。皆の者、構え!!」  碓氷の指示に従って兵士達は一斉に武器を構えその時を待つ。  すると、碓氷の言う通り、湖の中心からボコボコと大きな水柱が立ち始める。
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