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龍にもう片方の腕を噛みちぎられ、両腕を失ってしまった。
腕を失い、バランスを保てなくなり、そのまま後方へ倒れ込んでしまう。
腕をなくせばもう手立ては無きに等しい。
彼は諦めて龍に喰われるのを覚悟したその時だった。
グワアアアアアアアアアアアッ!!!!
突然龍は藻掻き苦しみ、神社の屋根を貫き、空高く宙を舞うと、力尽き、そのまま湖の中へ大きな水音を立てて落ちていった。
「ハア……ハア………、……やったか……?」
ぐるりと激痛に絶えながら、体位を変えて、うつ伏せ状態になり、湖の方を見る。
プカ……と水面上に顔を出した龍だが、意識もうろうとしている様子で、こちらに襲いかかろうとはしない。
「……お前にも……封印の術をつけた。……のちに、眠りにつくだろう……」
少しだけ残った左腕を支えに、体を少し起こして龍を確と見る。
虚ろだった目が急に一点を睨みつける。
遠くにいる碓氷を視界に映すと、
『……愚かな人間どもめ……。私は忘れぬ。……この憎しみを……!!怒りを……!!……再び遭うとき、それは……貴様の最期となろう……』
ポツリポツリと、しかし重々しく、小さく轟く声で彼に伝えると、そのまま湖の中へ眠るように沈んでいった。
「……くっ!!」
「碓氷様!!碓氷様!!今すぐ治療します!!」
指折りするほどしか残っていない残りの兵士達と側近達が両腕を失った彼に駆け寄り、布の切れ端で止血を行っていた。
「………龍に……顔を洗って、待っていろ、と、言われてしまった……。……これが、神を傷つけた、因果かな……」
乾いた笑いを浮かべながら蒼白な顔で兵士達に抱えられる。
「そんなことありません!碓氷様は我らを救ってくださいました!これで島の民たちも安心して暮らすことが出来ます!」
「……そうだといいのだがな……」
担架に乗せられた彼は、意識もうろうとする中、目の前に広がる大きな満月を見つめていた。
「……ヤツとの再戦……何年後のことになるだろうかな」
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