第1章 若葉ノ囁キ

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「……新作カップ麺」 ぴく、と彼女はその言葉に反応する。 「もしや……!」 「ああ、やっと入荷したんだってよ?」 「行かねば!!カップ麺が待っている!!」 ばっ!!と彼女はきた道を帰るようにして駆け出した。 「……こんなんだから一向に痩せないんだよお前は」 ふっ、と呆れを交えた笑いを漏らすと彼も彼女に続いて駆け出した。 ーーにしても、以前に比べると不気味さが増してやがる。早く立ち去った方が良さそうだ。 あっという間にばてた彼女に追いつき、彼女を抜いてそのまま駆ける。 「ゆうちゃああん……はやいよおおお……」 ばてながらも必死に彼の後を追うサヤ。 丸い球体のような体を揺らしながら大量の汗をまき散らして今にもひん死になるような表情で走る。 と。 急に何かを察しサヤは足を止める。 ーー何か、こちらに近づいてる…? サヤはその気配がする方、茂みが深い草木の中をかき分けながら歩み寄って行く。 ーーなんだろう。とても嫌な感じがする。ヘドロのような、気持ち悪い。でも、どこか懐かしい……。 かき分けかき分け、たどり着いた頃には葉まみれになって茂みを出た。 そこは鳥のさえずり、川のせせらぎ、木の葉の擦れる音。自然の醍醐味を表すような場所に着いた。 ーさっきの気持ち悪い感じがなくなった……?それに私、ここにいる誰かを知っている……? 目の前に広がる湖。底まで見えるほど透き通っており魚も見える。 ーー……来る! 彼女はスカートのポケットに手を忍ばせ数珠を持つと構えながら湖に近づいて行く。 ヒラヒラヒラ……。 山桜の花弁が舞い落ちてきた。そのまま桜は湖の水面につき、波紋を作る。 だんだん近づいてくる”それ”をひしひし感じながらそれと対面する時を待つ。 ーーもしかしたら物の怪かもしれない、或いは神かもしれない。 息をひそめ走り疲れた時の汗は引き、冷や汗が彼女の頬を伝う。 やがて波紋は大きくなっていき、気配もすぐ近くにありつつある。
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