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彼女は急いでその霊感の元へ走り出そうとした。が、出来なかった。 あの青少年だ。 彼が彼女の手を掴み、行く手を阻んだのだ。
「離して!!私は行かなくちゃいけない!!」
もうこの際彼が全裸だろうが関係なかった。彼から強い霊感が出たのも。 先を急がせてほしい、と彼を見つめ訴える。
「……アレには、関わらない方がいい。疫病神だ」
「……あなたも、分かるの……?」
コクン、と静かに頷き、彼女の手を引き歩み始めた。
「私がサヤを守ろう。それなら行っても良い」
彼の広い雄々しい背中から、不思議と恐れを感じなくなった。 むしろ頼りたいと思えてきた彼女だったが…。
「……一緒に行くのはいいんだけど……もう一つお願いしてもいいかな……」
オオオオオオオオ……
場は変わって樹林の中。 地は何か大きなものが通った跡があり、通り跡に生えていた植物は全部腐れ果てていた。
その近くで木陰に隠れるのは先程の少年、ユウだった。 携帯していたマスクをつけて息をひそめる。
「くそっ!よりによって疫病神かよ…!」
そう、植物を腐らせていたのは疫病神だった。 何メートルか離れているがそこからでも姿が分かるほど大きなものだった。 芋虫のような図体には左右それぞれ四本ずつ、馬のような四肢を生やし、鬼のような厳めしい顔の口から黒い煙が出ている。
ーー疫病神は親父が封印していたはず……。なぜ解かれてここにいるんだ?
ーー……いや、考えている暇はねえ!早く鎮めないと、森が大変なことになる!!
彼は隠れるのを止め、疫病神の後を追う。
疫病神は途端に動きを止める。 どうやらユウの動きに気付いたらしい。ユウは感づかれたことに恐れを持たず、そのまま疫病神の正面に立ち、懐から武器を取り出した。
「……わりいが、村(そっち)の方には行かせねえぜ!」
バンバン!!
銃声が二回、森に鳴り響く。
オオオオオオ!!!
不気味な雄叫びが彼の耳に響く。
彼が放った武器の太いピストルから僅かに煙が吹き出ている。
「ーー悪く思うなよ。これが俺達の仕事なのだから」
スチャ、と両手にそれぞれ備えた二本のピストルを喚き苦しむ疫病神に向ける。
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